花は折りたし梢は高し

とにかくいろいろうまくいかねーなってことを書いていこうと思います。

いつか書く「アレ」な話についてのプロローグを書いてみる

会社のお昼休み。

友人と待ち合わせて用事を済ますことにした。

 

イヤホンを外しながら、先に来ていた友人の向かいの席に私が座ろうとしていると

「何?」と、聞かれた。

は?注文?と一瞬戸惑って、ああ、曲か、と思い当たる。

「アウルシティ。」

「アローブラックのやつ?」

「ううん。もっとずっと前の。」

手渡されたメニューをぺらっとめくった。

お腹すいてないなあ、とスイーツのページをぼんやり眺める。

 

「アローブラックなら、アヴィーチーのやつよりアコースティック版がいいよね。」

Make me up?

「それそれ。」旋律を鼻歌で歌っていると「寝不足。」という向かいからの声に、メニューから顔を上げた。

 

初めてまじまじと今日、顔を見た気がする。

あら、珍しくスーツ。

あれ、この人こんな顔だっけか。やつれた。痩せた。なんか感じ違うな。

 

「ん、髪切った?」

「寝不足だろ?」

肯定に視線を上下させた後、同じ言葉をもう一度。

 

確かに今日の私は寝不足で、いつもよりもちょっと言葉の理解に時間がかかっている。

「急ぎですまない。」

仕事。と、渡した封筒を小さく掲げた。

「や、そのせいじゃないよ。」

そう?だったら?と

珍しく途端に興味深そうに身を乗り出してくる。

 

なんとなくめんどくさくて、私は通りかかった店員にコーヒーをオーダーをしてから、目の前の水を一口含んだ。

話変えよかな。

 

「そういや、私ブログじみたものとか書いてんだけどさ。」

「じみたものってなんだよ。」

「きみのことを記事にしてたりするんよ。」

「ふーん。まあ好きにすれば。」

「そう言うと思ってました。」

「どうぞお好きに書きなさいな。」

 

興味のある話題から逸れたからか、私が仕上げた仕事の出来栄えに目を通し小さく頷きながら、気のない返答をした。

読ませろ、とも言わないのが彼らしい。

 

「ピコピコしてるミーハーなの、すきでしょ。」

話は音楽に戻ったらしい。

「え?ああ。年明け勉強してた時は、メジャーレイザーばっか聴いてたわ。」

AndroidかなんかのCMの。あれPVいいよな。」

「インドぽいやつ?」

「そうそう。デヴィッド・ゲッタ思い出すわ。」

 

「それよりどうよ。」

「この部分だけ文字入れて。それで、えーと、フィニッシュ?専門用語でなんていうの?」

「ん?校了?いや、責了か。」

「じゃ、セキリョー。」

「データ今度渡すから。」

「あいよ。まあ、お前はほんと、アウトプット止めたら死ぬよな。」

カバンに書類を丁寧にしまいこみながら、聞こえるか聞こえないかの音量でつぶやく。

 

(気が知れない)と言われた気がした私は、なんだかムッとして「きみはそういうの下手くそだもんねえ」と吐き捨てる。

「ってか、そんな楽しい?誰彼構わず話をしたり、自分の感情を出したりするのって。」

と、ちょっと売り言葉に買い言葉な雰囲気になったところで、私が反撃の言葉を頭に浮かべた後、言うほどのものでもないと思って口をつぐんでいると

「それがお前だけど。」と向こうもさやに納めた。

 

「まあ、ちょっと羨ましいんだと思うよ。そういうボーダレスなとこ。」

頬杖をついて、チラっと私を見る。

「ボーダレス?」

「自分に素直になろうとしてるところとか。」

「そんなことないよ。」

割と誤解されてるんだなあ、という感想。

しかし今、それを否定するにも肯定するにも、なんだか中途半端になりそうだ。

むしろ最近は、伝えるのは面倒だな、と思うことが増えたというのに。

 

「すきな人にしか、素直に伝えたいとは思わないよ。」

ふてくされたみたいな声色になった。我ながら。

「それがいないから、辛いんじゃないの?」

もぐもぐとパスタを頬張ると、少し首を傾げて粉チーズをかけている。

だから、ブログとか書くんだろ。

と、いうことか。

 

「いるよ。すきな人。」

「ふーん。」

意外そうな顔をさせられたことで、なんとなく私は気が済んだ。

「まあ、寝不足になるくらいだしな。ウダウダしてんの見るのは嫌いじゃないよ。」

何か一人納得したような顔をして、感慨深げに頷いている。そしてまた、粉チーズ。

「ドSか。」

「ドMだろ。とっかえひっかえ頭突っ込んで。」

もぐもぐ

「違うよ。これはちょっとした宗教だよ。」

「え?なにそれ。」

「私は干支的にも一途だかんね。」

「ふうん。干支とか関係ないが。ま、デザートでも食え。」

机の横の、小さなメニュー立てを手渡される。わたしはチラっと見ながら

「アイス。いや、プリンかな。そういや干支なによ?」

と一息に言った。

友人が店員を呼び止めオーダーしてから

「え?へび。」

と答えた。

「は?ほんと?粘着やね。てか、ちゃんとした年初めて知った。」

「今更か。どれだけ興味ないんだよ。」

「や、多少はあるよ。」

「やっと気づいたか。」

「勘違いすんな。すきとかじゃないわ。」

「そう?お前が自分のこと好きになったら、僕のこと好きになる気するけど。」

「うるさい。昔からさそり座とは話が合わないんだよ。」

A型だけど。」

私はA型の長男が好きだ。なぜか好きだ。

元彼はほとんどA型長男だ。

って、統計学的に一番男性で多いのは長男だし、日本の人口で一番多いのがA型だから

おのずと多くなるのだろうけども。

 

プリンはすぐに来た。

友人は私の食べる姿を、無表情で眺めていた。私ももう何も言わなかった。

 

コーヒーを飲み干し、ふとに顔を上げると、視線の先には友人の次のアポイントの相手であろう人物がいた。

 

「お後がよろしいようで。」

 

私が伝票をつまみ上げ、財布を取り出そうとするのを制止して、「アレ、書きなよ」とぼそっとつぶやく。

私はこっくりと頷いて、500円玉を置いた。

 

そのアレ、いつかじっくり書きたいと思ってるから、聞いたと分かってるってことか。

さそり座もわりとやりおる。

 

太陽が目にしみる、と思いながら、私は会社に戻った。