花は折りたし梢は高し

とにかくいろいろうまくいかねーなってことを書いていこうと思います。

ある夜の、あるできごとについて書いてみる

その人は、まるでそのお店の主のように、一番奥のソファ席に座っていた。

 

いつもは消しているオーラみたいな、存在感みたいなものを大放出している。

久しぶりだ、こんなこの人。

 

どんな顔して挨拶しようか、と迷う間もなく

 

「ん、おみやげ。」

 

と、突き出すように渡されたうさぎを受け取りながら、私は主の正面の椅子に腰を下ろした。

 

私の好きなうさぎのキャラクターなのはまちがいないのだが。

だけど、何やら変な格好をしている。

 

「どこ行ったん。」

うさぎをマジマジと見つめながら聞いた私の問いかけには、チラッと視線を向けただけで答えない。

ああ、と納得して、それ以上は何も聞かないことにした。

 

ガムシロップが私のアイスコーヒーの分も入っているので、相当甘いはずのアイスロイヤルミルクティを妙に冷静な様子ですすっている。

 

機嫌がいいんだか悪いんだか。

 

簡単にかいつまんで近況報告や経緯などを話していると、ふむ、と腕を組み、そのまま腕がゆっくりと着地。

主は机に静かに突っ伏した。

 

あ、つむじ。

 

私は割と長身で、自分よりも背が高い人はなかなかいないからか。

つい背が高い人のつむじには、目が行ってしまうのだ。

触ってみたいな。押してみたい。

でも怒られるな。

真面目な話してるものな。

 

しばらくの沈黙。

 

私はつむじの誘惑から逃れるため、机の横に置いてある小さなデザートメニューをながめて、コストパフォーマンスについて考えていた。

 

……お前さ。」

 

くぐもった声にハッと視線を向けると、相変わらずのつむじ。

 

「まあ、分かったけど。言っても聞かないだろうけど……ごにょごにょ

 

ごにょごにょ、の辺りは耳に入ってなかった。

 

「本心で、お前はそうしたいの?」

むくりと主が起き上がった瞬間に、私はハッと会話の世界に戻ってきた。

 

おそらく話を聞き流していたのを悟られたのだろう、若干非難がましい目線を向けられる。

私はヘラっと笑った。

 

だって、私、肝心なことは何もまだ話してない。

 

「関係ないってゆうかもだけど、ちょっと考えたい。」

すくっといきなり立ち上がる。

何やら難しい顔で、伝票を鷲掴みしてすたすた歩いて行ってしまった。

呆然としていると、くるりと踵を返し、しばらく私の顔をにらんだ後「おやすみ」と言い残し壁の向こう側へ消えた。

 

ああ、なんだか嵐のようなヒトだ。

とりあえず私のことをとても親身に思ってくれているのだろう。

ありがたいけどもね。

そして、こういうところは私に似ている。

 

やれやれ、と立ち上がり、だいぶ氷で薄まったコーヒーを飲み干してからお店の外に出ると

私のバイクの横の柱に寄りかかる主の姿。

 

まだ帰ってなかったらしい。

 

「タイムリミットないと、お前、ほら、ダメだろ。」

性格的にね。

乾いた笑い。ちっとも目は笑ってない。

 

「まっすぐだもんな。」

残酷なくらい。

あれだよ、なんとかビーム!みたい。

 

ビームねえ、と、私はベルトにじゃらじゃらとぶら下がっている鍵を見つめていた。

あれがきっと、この人の捨てられないものなのだろう。

 

「週末また来るから。ちょっと考えさせて。」

 

言葉には、何やら悲壮感すら漂っている。

これだけ思いつめるようなことをしてしまったのだろうか。

 

「ごちそうさまー。」

 

背中に声をかけると、律儀に振り向いて、真顔でこっくり頷く。

 

その姿を見て、なんだか心強いような、楽になったような気持ちになる。

ゆってもいいかなあ。

心の中身。私の核心。

 

ゆわずとも、伝わっている気もするけれど

 

私も考えないといけない。

 

選ぶもの

捨てるもの

諦めるもの

追いかけるもの

 

どれももれなく大切なもの、なのだが。

 

見込みのないもの

 

それがどんなに思い入れのあるものでも、そのまま持っていたら、きっと傷つけるんだ。

だからきっと、こんなに時間が経っても、何も変えられてない。

頑固だね。

ゆるやかに、私も何か形を変えないと。