花は折りたし梢は高し

とにかくいろいろうまくいかねーなってことを書いていこうと思います。

「この日の事をとにかく忘れたくなくて」こんな話を書いてみる

久しぶりに会った。

この人は、インドの占い師に「ソウルメイト」と言われた大事な人だ。

性別や年齢なんて関係なく、人としてのつながりを感じている。

インド人曰く、前世は親子だったそうだけれど、実際はどうなんだろう。

 

どれくらいぶりだろう、とりあえず、今年に入ってからは初めてかな。

と、相変わらず顔色の悪い横顔を眺めて思う。

 

最近、死相すらが出ている気がする。

 

痩せたとかやつれたとかそういうのを通り越して、ゲッソリというか、なんというか。

「土に還るのかも」と失笑するこの人の冗談すら、笑えない気がしてくる。

 

疲れてんのかなあ。

 

朝から呼び出したことの申し訳なさを感じて、ほんのちょっと口をつぐんだ。

そのままぼんやりしていると、右側の頬を指で押される。

 

ん?

ああ、この人の挨拶はいつもこれだね。

と思い出す。

 

初めて触れられた時も、これだった。

ほぼ初対面の私の頬を、バスの降車ボタンを押す子供のように、どこか緊張を含んだ、面白がっている表情でぽちっと押したのだ。

 

親に「アンタ、今何食べてんの?」とリアルに言われる程度に丸顔なので

(飴ちゃんとか入ってない/しかも結構最近言われた)押したくなる気持ちもなんとなく分かる。

 

「つぎ、止まります」

とゆってみた。

その時どんな顔をしていたのかは覚えていない。

 

あの、初めてのぽちっとから、何年経っただろう。

二人とも二十代だったあの頃から、すっかり歳をとって今やぶっちぎりの三十路である。

思えば遠くに来たもんだ、と私もこの人も思っているのだろう。

 

早起きが効いて、適度にぼんやりとした思考の中、私たちは言いたかったはずのたくさんの言葉をスカッと忘れ、本当にどうでもいい会話をしていた。

 

この時間の希少性と反比例するように、気負わない時間が過ぎていく。

 

目的もなく、ただあれこれと、その時感じたことをそのままアウトプットしているだけ。

何を話したかすら覚えていないような内容。

会うと気がつくことがたくさんある、とそれくらいしか印象が残っていない。

 

それはそれで、いいような気もしていた。

浮かれているような、落ち着いているような。不思議な浮遊感。

 

「なんか食べよか。」

 

と、ずっと言い続けながらも、それほどの積極性もなく、結局何も食べずに時間が過ぎる。

知らない道をぼんやり眺めながら、いつも感じる水の気配。

いつもブルーライトにまみれている目が、緑をいっぱい吸収している。

 

食べ物を見るとお腹が空いていることに気がつく。

けれど、それほど何かを食べたいわけではないのだ。

 

私が物欲しそうな顔をしていたのだろうか

「お腹すいたねえ」と、あやすように言われた。

単に頭の中で、残り時間について計算しているだけなのだけども。

この人と会う時のクセなのだ。あと何時間。といつも考える。

 

ひょっとしたら、この人も考えているのかもしれない。

いつもこの人は、私をこうしてさりげなく気遣っているから。

 

行きたい場所を言わなくても、連れて行ってくれる。

どれだけ迷子になっても、必ず時間までに送り届けてくれる。

私は、半ば妄信的な信用を持って、リラックスしている。

 

一緒にいると、面白いことや変わったことが起こったりする。

それは単に、他の人といたら面白いと感じなかったものなのか

はたまた呼んでしまう体質なのか、は分からない。

 

ほんのちょっとひんやりした風が、髪をなびかせている。

ん、と目を細めているその様子を眺めて、suzumokuの適当に透明な世界みたいだなと思った。

「ふらふら過ぎる時間がひたすら愛おしくて」、それがただ心地よくて、感じていたかった。

私の視線に気づいて、眉をあげる。

なんだかその仕草に、ほっこりした気持ちになる。

 

時間ギリギリまでくだらない話をして、私は席を立つ。

帰る時はなるべく振り返らないようにしている。

 

離れてからふと見ると、あの人はあの顔をしている。

なんだか複雑に感情の入り組んだ、無表情。

 

そういえば、見送る気持ちってどんなものだろう。

私は視線で「またね」と伝え、パタパタと手を振って、踵を返した。

 

カバンの中からマスクを取り出して、耳に引っ掛けながら思う。

 

あの人も小さく手を振って。

それから、どうしてるんだろうな。

同じように踵を返しているのかな。私の姿が消えるまで眺めているのかな。

少し安心したような気持ちなのかもしれないな、と推測する。

私よりも、ずっと気を張っているはずだから。

 

一人になると、途端に現実に戻ったような気がする。

なんだか泣きそうな気持ちになる。

溢れてくる気持ちは、寂しさのような、温かさのような、愛おしさのような。

ああ、こんな気持ちなのかな。と思う。

 

席に座ると、途端に眠気が襲ってくる。

切なさを感じるのが辛くて、私は目を閉じて眠りへと落ちる。

 

目を覚ます頃は、この長くて短い、夢が終わっているだろう。