花は折りたし梢は高し

とにかくいろいろうまくいかねーなってことを書いていこうと思います。

イケメンリア充が隠居してユニクロメガネにトランスフォームした、彼とのやり取りについて書いてみる

NHK100de名著、という番組を録り溜めていて、暇があると見ている。

(受信料払っています)

 

ずいぶん昔の、フロムの「愛するということ」の回にいたく感銘を受けて、NHKのブックにはアンダーラインを引いてまで読むハマりっぷり。

結局元の本まで買ってしまった。

 

そして、今年の2月はアドラー、まだちゃんと見てはいないけれど(録画って良くない。結局見なかったりする)

Twitterによれば冊子が売り切れているらしい、そんな話をしたら、目の前でうつむきがちに玄米シェイクを頬張っていたメガネが顔を上げた。

 

「きっかけ、アドラーだったかもしれない。」

「ん?」

「いや、きっかけ。」

 

ああ、と頷く。

メガネは現在、過去の華やかなリア充生活をあっさりをかなぐり捨てて、仙人のように田舎の山に引きこもって生きている。

買い物は基本Amazonだが、たまにこうして、フラッと下界の私の地元、地方都市に生存確認するように降りてくる。

本日は近所のモスバーガーにて現地集合中。

 

言葉の続きを待つ私の視線に、シェイクに戻ろうとした彼はふと手を止めて、私の背後の斜め上をぼんやり眺めた。

たまに守護霊が見えるとか良くわかんないオカルトなことを言うので、私も思わず何かいるのかと振り向く。

と、同時に彼が話し出した。(別に何もいないらしい)

 

「読んだの。アドラー自己啓発本て嫌いなんだけど。」

 

体を変な方向にくねらせていたのを戻しながら、なんの言い訳?そういうこと言うとかっこいいと思ってんの?と

余計な蛇足に私が鼻で笑うと、眉をひそめてメガネは続ける。

 

アドラーは、人間の悩みは、すべて対人関係の悩みであると言い切った。

特に「認めてほしい」といった承認欲求は、「自分には価値がある」と実感したいから生まれるもの。

それによって自分の人生が他者のものになってしまう。そこで人は軋轢を感じ、不自由さを覚える。

自分の人生を生きるためには、「課題の分離」をすることが大切ってゆってて。

自分が幸せになるためにできることは自分にとって最善の選択を取り続けることしかない。」

 

一息にサラサラと話し終わると、ふう、と嘆息。

「いわゆる、嫌われる勇気ってやつ?」

そう、とシェイクを口に含んでから、彼はコクリと頷いた。

 

「でも僕は、その勇気っていうのが持てなかった。

怖いじゃん。どうでもいいってしてたいけど、みんなに期待されたいし、好かれたい。

でも自分って人間をちゃんと掴んでおかないと、それすら見失いそうになる。」

 

だから逃げたの、とどこか投げやりに言って、オニオンリングを頬張った。

なんだか、意外性が全くなくて、逆に驚く。

まあ、これもまた一つの真理なのだろう。

 

「他者の課題にも踏み込まない。それは失礼なことだし、僕には関係ない。

しかも、そうしていれば自分も他者に期待もしないで済む。」

 

「まあ、それも理想論だけども。ほっとけないとかあるじゃん。」

 

「期待してなきゃそれでいいんだよ。好きで手を出すなら。

問題は、せっかくやってあげたのに、みたいな気持ち。もしくはあなたのためを思って、という余計なお世話。

頼まれてないんだから、ありがた迷惑でもあるって、認識しないで、こっちが頑張る分どうしてってやってもらえない?どうして幸せではない?って、相手や社会に期待してしまう部分。

よく例に上るのが、親が子供の進路を口出すこととか。それは子供の問題であって親が勉強しろって言うのは、課題の分離をできてない。

子供も親の期待に応えようとして、自分なりに物事を考えたり判断しない、もしくは自分の理想と違うことをする、それも課題の分離ができてない。」

 

人の喜ばせたいって人ほど陥りやすい。

それって幸せにしたいとは違うんだよ。

人からの承認で、自分を保つだけ。

自分を持ってない人。自分を見失ってる人。

 

過去の自分のことを言っているのだろうか。彼は自嘲気味につぶやいた。

 

「不器用なやつ。」

私の言葉に、彼は一瞬眉を上げた後、なんだか嬉しそうに笑った。

「弱ってたんです。」

だから、アドラーが妙に染みた、と。

 

どうもしっくりしすぎてしっくりこないな、と座りの悪い顔をしていたのか

「失恋したんだよ。」

とメガネは諦めたような顔をしてメガネを押し上げた。

 

ああ、そういうこと。

全部のつじつまが、この何年か越しで繋がった。

 

このメガネ、あの頃、そういえば年甲斐もなくやんちゃな恋愛してたっけか。

 

なんて言ったらお前に言われたくねーよと言われるのが目に見えてるので、飲み込んだ。

全然やる気なさそうにしてたのに。あれもフェイクか。

アレが、割とクールで執着のない彼にそこまでダメージを与えていたことが意外で、そんな意外に驚いてる自分が少しつまらないので

いかにもやっぱりね、みたいな顔をして携帯を見た。

 

ふむ。

そろそろ帰ろ、と伸びをした。

「弱いところ見せたら、優しくしてもらえると思ったら大間違いだー」

捨て台詞として、歌うように私が言うと

「お前は基本、優しいよ。」

目も合わせずに彼は言い、持っていたポテトで押し出すように、ナゲットをひとつこちらに差し出す。

私はそれを口に放りこんでから、席を立った。

ひらひら、とメガネは手を振った。

 

私のバイクのホルダーにぶら下がっていたメットの中に、多分彼がベランダで育てたのであろう、ビニールに包まれた小松菜らしきものがつつましく入っていた。

うちのペットの好物。

あいつもたいがい優しいよな、と鼻で笑った。