二輪教習の彼方には許容の真理があるということを書いてみる
二輪教習の彼方には許容の真理があるということを書いてみる
なんとか動き出した教習がつまづきを見せたのはこのころだった。
前回注意されたものをノートで確認し、イメトレして臨んだものの。
2時間連続で受けた若くてチャラい雰囲気の教官の教習。
それは
まー
楽しくなかった。
どうしても、なんというか。
その教官とは息が合わないのだ。
好きじゃないと言ってもいい。むしろ嫌いだ。
焦るから失敗する。失敗すると同時にうんざりした口調ですかさず指摘される。
また焦る。の繰り返し。
ダメなのは分かってるけど、どうしたらいいのか分からない。
やれと言われてもどうしてやれないのか分からない。
○○、教わってないっすかー?と度々聞かれる。
最終的には「何が分からないんですか?」とため息。
いきなり「後ろ乗ってください」と人生初のタンデムを体験した。
……が、全然何が言いたいのか分からなかった。
私みたいな人間はもう二輪なんて乗っちゃダメなんだろうか、とまで落ち込んだ。
身体はこわばってガチガチだった。
今何速で走ってるのかも分からない。
手も足もとりあえずカチャカチャしてるだけだった。
自分でもダメすぎるくらいダメなのが分かる。
頭で分かっていることが身体に降りてこない。
もーアカン。
無言で教習原簿を渡して、チャラ教官は部屋を出ていった。
申し訳なさに涙ぐみながら帰宅した。
教官にも申し訳ないが、何よりCB400男前に。
あんなにカッコいいやつなのに、乗りこなせない自分が辛い。
つらたん
とつぶやいてみた。
そのバカバカしく気の抜けた響き。
まだだ…まだおわらんよ!!
次の教習、気が重いが、ここでやめてなるものかとお腹に力を入れる。
多分彼とは相性が悪かったのだろう。何度もそう言い聞かせた。
適性検査にも「クヨクヨしやすい」って書いてあったしな。ハハッ。
私の通っている教習所は、配車券を見るまで教官が分からないので
ドキドキしながらカードを入れて配車券を見る。
その心境は成績表を開ける学生のごとく…。
無事、前のチャラとは違う教官ですた。ホッ。
バイクは身体がむき出しだし、バランスを崩せばたやすく転倒する危険な乗り物。
安全に乗るためには車以上に運転する者のテクニックが要求されるということが乗ってみてよくわかる。
自分を守るのは自分のテク。ライダーズテクニック。
テクニシャンを目指すのだ。そのためには愛、バイクへの、周囲への、自分への愛。
そうだ。大切なことを忘れていた。
愛こそすべて。
愛とは救い。
ピースオブラブ。
Pressureはねのけて乱反射。
アーハー。イエー。
テンションを自分で高める努力をしながら、プロテクターを身に着ける。
ああ、今日も暑い。
入道雲を背景に、次々にクランクの前でエンストする教習者を眺めて思った。
そうだ、どんな精神コンディションで、どんな状況でも、バイクは特にブレずに安定した運転をしなくてはいけない。
そうだ、きっと彼はそれを私に教えるために現れたのだろう。
ありがとうチャラ教官。
だがもう二度と君の教習は受けたくないんだが。
さて、この日とうとう噂の急制動をやることになった。
一段階も後半に入ると、よく聞く「すらろーむ」やら「一本橋」やらが来る。急制動はその入門らしい。
ベテランな雰囲気ゆんゆんの教官は、びしっと厳しく指摘はするものの「ダメダメー○○だから失敗するのー!」と教えてくれる。
ありがたい。言われてみれば確かにそうだ、と気が付く。
いきなりは直せないBBAだけども、意識するうちに少しずつ成功率が上がっていく。
そうか、失敗の理由が分かれば、すぐにできなくても意識さえすれば上達できるんだ。
すごい、アンタすごいよ。
厳しいこと言われてもなんだか嬉しかった。
後ろ乗ってーぎゅってしててねー手元見えるー?この辺見ててー。ね?わかったー?
人生二回目のタンデムは実に身になる二人乗りだった。
dan dada。
○○はできてるよ~と褒めてくれると更に嬉しかった。
たった1時間の教習だったけれど、自分でどうしてできないのかが分かっただけでも大きな収穫だった。
クソ、あのチャラ…バルス。
前回そう指摘してくれれば少しは違ったのに。
やる気スイッチ見事にへし折りやがって。
壊れかけたスイッチをセロテープでいびつに補修、そんな日だった。
次の教習では、以前あたったことのある教官で「前よりはずいぶんスムーズになりましたね。」と励ましてくれながら、私のできない部分を一緒に確認してくれた。
「○○ができないと…どうしてでしょう?」と問われ、「前回教官の方に○○だとご指摘いただきました。○○だと○○で、○○だからだと思います。」
と答えることができ、「ふむ、なるほど。じゃあそれを重点的にやりましょう。」とあっさり。
そうこれこれ。
これがお金を払って教わるってことだよね!鼻息荒くなった。
別に厳しかろうがいい。いいからできるように教えてください。
自分だけで何とかしろなら教習所いらないじゃない。
部活やバイトじゃないし、悪いとこだけ言われたって分かんないやい。
こちとら初心者じゃ。
ますますチャラに対しての評価が下がっていく。
教わるのが下手な私を教える度量が、チャラにはなかったということだろう。
と、責任転嫁することで、なんとか復活を遂げた。
とはいえ、やっぱりワシはもうだめじゃ…という気持ちもムクムクしてくる。
いかんいかん。
心を守るのだ。
クヨクヨしないのだ。
愛とは許すこと。
ピースオブラブ。
私は自分とチャラを許そう。
だから私が同じこと何度も言わせてても、少しだけ多めに見てくれ。
BBAは落とし込むのに時間がかかるんだ。
二輪教習の先には、寛容の真理がある。
許しあう心……。
補習の清算をしに、受付に向かう私だった。